また前後のウイングの規定も変わり、ウイングから発生するダウンフォースへの依存を減らしている。これは、2021年シーズンまでのF1で問題視されていた後方乱気流を抑えるためと、乱気流を受けてもその悪影響を受けにくくするためのルール改定に基づいている。
アルファタウリの2021年マシンAT02(上)と2022年マシンAT03(下)。
今年のF1は性能に関わる重要部分が一新されたため、これまで蓄積された膨大なデータの大部分が使えなくなった。このリセットで、これまでの勢力図が大きく変わる可能性が出てきている。よりレースはエキサイティングになり、どのドライバー、どのチームが前に出てくるのか分からない状況。大変革期の2022年シーズンは、F1史に残る、絶対に目の離せないシーズンになるだろう。
さて、シーズン開幕を迎えるチームの状況はどうだろうか。プレシーズンテストの様子を踏まえた上で、2021年のコンストラクターズランキング順に紹介しよう。
メルセデス (開幕前テスト6日間合計走行距離:3920.9km)
2022年のマシン『W13』は、開幕前テスト後半のバーレーンテストでサイドポンツーンを大幅に絞り込んだ独特なボディを披露し世界を驚かせた。プレシーズンテストでは高速走行時にマシンが激しく上下に跳ねる”ポーパシング現象”に悩まされ、テストプログラムはデータ取りがメインの控え目な走りに終始したが、圧倒的なチーム力を持つメルセデスだけに、このままシーズンに入っても中段に沈んだまま…というのは考えにくい。
独創的なマシンのポテンシャルを発揮し、これまでのように他チームをリードできるか?謎に包まれたW13の実力は、2022年シーズン最大の注目点の一つと言えるだろう。
レッドブル (開幕前テスト6日間合計走行距離:3405.49km)
今季のマシン『RB18』は、サイドポンツーンやディフューザー後端の空力処理で、他チームとは大きく異なる独創的な形と仕組みを導入している。パワーユニットはレッドブルパワートレインズRBPT-H001と名前を変えたが、実態はHondaが2021年に全力を注いで開発したHonda製のパワーユニットだ。 バーレーンの3日間のテストではフェルスタッペンがトップタイムを記録し、今年も序盤から順調に強さを発揮しそう。昨年同様にチャンピオン争いを繰り広げる可能性は高いのではないだろうか。
フェラーリ (開幕前テスト6日間合計走行距離:3941.11km)
会社創業75周年を記念して『F1-75』と命名された今年のマシンはフェラーリ独自の空力哲学が盛り込まれ、サイドポンツーンの上側がえぐれた特徴的な形となっている。また2021年まで出力で差をつけられていたパワーユニットも出力をアップさせることに成功しているようで、プレシーズンテストの結果からメルセデスやHondaとほぼ互角の、ともすれば上回るところまで来ていると見られている。テストでは速さを見せると同時に、6日間合計で3941.11kmと全チーム注最長の走行距離を記録。速さと信頼性を兼ね備えた深紅の跳馬は、遂に念願の王座奪還に手が届く所まで来たのかもしれない。
マクラーレン (開幕前テスト6日間合計走行距離:2788.78km)
そんな中で迎える大事な2022年シーズンのマシン『MCL36』は、レッドブルと同様にリアサスペンションをプッシュロッド式にし、今年の長くなったディフューザーの効果をより高める形状を選択。排熱効果を高めるため、空気抵抗に妥協をしてカウルに複数のルーバー(シャークギルとも呼ばれる排熱口)をあけるチームが多いなか、MCL36は大きなルーバーには頼らず車体表面の気流をより重視した設計にする独自のアプローチで、昨年を超える成績を虎視眈々と狙っている。
アルピーヌ (開幕前テスト6日間合計走行距離:2852.39km)
2022年レギュレーションに合わせて新設計されたマシン名は『A522』。車体はもちろんパワーユニットも刷新されており、ハンデとなっていたパワーの部分で、どこまでライバル3メーカーに迫れるかも注目だ。バーレーンでのテストではアロンソが4番手タイムを記録しており、今シーズン躍進の可能性を感じさせている。 経験豊富なアロンソのチームけん引力と、経験を積み速さを増しているオコン。そしてA522のポテンシャル。これらが上手く噛み合えば、昨年を超える活躍が期待出来そうだ。
アルファタウリ (開幕前テスト6日間合計走行距離:3447.75km)
テストではピエール・ガスリーがバーレーンテスト初日でトップ。角田裕毅が同テスト3日間総合で7番手(ガスリーは同総合結果で13番手)になるなど、全体的に好調と言える。
経験を積んだガスリーは、今やF1でトップクラスのドライバーとの呼び声も高い。そして昨年F1デビューを果たした角田はオフの間にトレーニングを重ね、開幕に際し「去年の開幕前とは比較にならないほど準備が出来ている」と力強いコメントを残している。
昨年のコンストラクターズランキング6位は、トロロッソとミナルディ時代も含めてチーム史上最高位タイ。今季マシンの完成度は未知数ではあるが、上手く行けばこの記録を超えることも可能となるだろう。
アストン・マーティン (開幕前テスト6日間合計走行距離:3218.47km)
『AMR22』と名付けられた新マシンは、他のメルセデスパワーユニット搭載の3チームの、サイドポンツーン後部を細く絞り込んだ形とは異なり上部の幅は広く、半面サイドポンツーンの下側はかなり細く絞られた独特な形となっている。
ドライバーは元ワールドチャンピオンのセバスチャン・ベッテルと、近年安定した実力を身に付けてきたランス・ストロール。プレシーズンテストでは二人とも目立ったタイムを記録していないものの、テストプログラムはマクラーレン同様にやや硬めのタイヤで決勝を想定したロングランと、各種セッティングのデータ獲得を重視した様子。
この英国の名門スポーツカーブランド名を冠するF1チームが2022年シーズンどこまで躍進してくるかは現時点で未知数ではあるが、非常に面白い存在になりそうだ。
ウイリアムズ (開幕前テスト6日間合計走行距離:2770.05km)
今年のマシン『FW44』は前後が短いサイドポンツーンと、その後ろがかなり細く絞り込んだ形になっているのが特徴。プレシーズンテストではガレージ内で調整している時間が長く、タイムでもそこまで目立ったところはなかったが、まだ手の内に何か隠している可能性はある。
ドライバーは、ウイリアムズで3シーズン目を迎えるニコラス・ラティフィと、一度F1のレギュラーシートを失い、2021年はDTM(ドイツツーリングカー選手権)でも活躍していたアレックス・アルボン。若い二人の伸びしろも楽しみなチームだ。
アルファロメオ (開幕前テスト6日間合計走行距離:2674.44km)
期待の新型マシン『C42』は、独自設計の新型ギアボックス採用。この初期トラブルと思われるアクシデントもあり、プレシーズンテストでは思ったように走行距離が伸ばせなかった。しかし、走り出せばメルセデスから移籍してきた新加入のバルテリ・ボッタスがバーレーンテストの3日間総合で7番手タイムをマーク。これもやや硬めのタイヤでのタイムのため、上位陣とのタイヤ差を考慮すると、トップ5も射程圏内と言える。
ボッタスの速さとトップチームでの経験は、チーム浮上のカギとなるはず。F1デビューとなる周冠宇は、F2時代に堅実に表彰台を獲得し、F1のレギュラードライバーの座を射止めた。この一新されたドライバーラインアップで、2022年シーズン果たしてどこまでチームを躍進させられるかに注目が集まっている。
ハース (開幕前テスト6日間合計走行距離:1965.7km)
バーレーンテストでは2日目に、マゼピンの後任として2020年以来のチーム復帰を果たしたケビン・マグヌッセンがその日のトップタイムをマーク。最終日にはミック・シューマッハーがバーレーンテスト3日間総合で2番手となるタイムも出した。昨年の苦戦を考えると、既に大躍進と言っても良いだろう。
ハースチームを良く知り、耐久レースで技と経験の引き出しを増やしてきたマグヌッセンの復帰と、乗りにくい2021年マシンをなだめながら走ったことで経験を積んだシューマッハによる、ハース久々の快進撃がみられるか?注目だ。
大きくマシン規定が変更され、設計思想もチームによって異なる今季は、勝敗やランキングの行方が見えにくく、それだけに昨年以上にシーズンを通して毎戦ワクワクドキドキのレースが楽しめそうだ。

小倉 茂徳(おぐら しげのり)
モータースポーツジャーナリスト
1987年、88年HondaF1チームの広報担当として、世界中のグランプリを転戦。現在はF1グランプリの解説やラジオ、誌面での連載、コラムなどモータースポーツに関する多方面で活躍。